速読書評『破産』
井上インストラクター書評『破産』
嶽本 野ばら (著)
239ページ
家賃25万円。カード返済額毎月20万円以上。なのに、月収20万円+働意欲、ほとんどなし。
このご時世に、この自堕落っぷり! ほとんど実話(?)のドロ沼借金返済小説。
【読書の所要時間】 25分(精読で1回)
「太宰さん、貴方は人間を失格になりこの世を去った。僕は人間失格ではない。人間と名乗ってよいのかすら定かでないヘタレだ。自殺することすら怖くて出来ない、ヘタレ中の中のヘタレだ。だからせめてヘタレであることくらいは、辞めさせないでほしい。ならば、ヘタレすら失格になってしまったら、もう僕には何処にも居場所がなくなってしまうのです」
嶽本野ばらは、長らく私の憧れだった。本を開けばいつだって、自分には身にまとうことがかなわないような素敵なお洋服の描写で埋められ、うっとりとその世界に没入できた。
彼の部屋で撮影された写真のあるガイド本も持っているが、まさに中世ロココの貴族のようなシャンデリア、天蓋付きのベッド、トルソーに飾られたBABY,THE STARS SHINE BRIGHTやvivienne westwoodのお洋服…… と乙女がときめくものであふれていた。
恋愛にまつわるエッセイも、彼がプロデュースしたお洋服も、すべてが夢とときめきで充ちていた。
王子様のようだった彼から、冒頭に挙げたようなセリフを聞く日がくるとは思わなかった。この本は小説であり、どこまでが彼の実話なのかは解らない。けれども、あまりにも浮世離れしていた彼の吐き出したこの台詞は、ずっとファンであった私は衝撃を受けた。
カードローンで首が回らなくなり、払えず家賃も電気も止められる。古書やお洋服のコンレクションを売って、なんとかぎりぎりの生活を送る主人公の小説の姿は、おそらく嶽本野ばら本人の体験が投影されているのだろう。
彼は、「アイコン」を脱したのではないだろうか。彼は長らく、ロリータファッションの代名詞的存在だった。ロリータファッションが広く世の中に認知されたきっかけには『下妻物語』の存在は欠かせないだろう。けれどもそれゆえに彼は=乙女であらねばならなかった。
この本のなかには、リアルを生きる彼の端々がぎっちりと詰め込まれている。
そしてその言葉は現実を生きる我々に共感を覚えさせ、前を向く勇気を与えてくれる。
*そのほかおすすめの嶽本野ばら作品
『エミリー』集英社
『ミシン』小学館
『千夜一夜騎士―アラジンと魔法のお買い物』メディアファクトリー
(井上インストラクター 2012年12月)