速読書評『ゼラニウムの庭』 | SP速読学院

速読書評『ゼラニウムの庭』

井上インストラクター書評『ゼラニウムの庭』

ゼラニウムの庭 (ポプラ社) ゼラニウムの庭 (ポプラ社)

大島 真寿美 (著)
279ページ

わたしの家には、謎がある…… 双子の妹は、その存在を隠して育てられた。
家族の秘密を辿ることで浮かび上がる、人生の意味、時の流れの不可思議。
生きることの孤独と無常、そして尊さを描き出す、大島真寿美の次なる傑作。

【読書の所要時間】 35分(精読で1回)

不老不死でいられれば、女性はいつまでも美しくいられる。
だからこそかぐや姫は数多の男に求婚されたのだし、エリザベート・バートリは処女の血を飲んだのだ。
古来から普遍の夢であるはずの、老いずに少女の美を保つこと。
しかしそれはすなわち、現実世界の時とは馴染めず孤高の存在となるということだ。

物語はるみ子に因って語られる。自らの祖母、豊世から告げられた家の秘密は、豊世の双子の妹、嘉栄は成長する速度がひとの何倍も遅いということだった。
頁を捲る毎に、嘉栄を取り巻く人物は成長し、結婚し、老い、そして死んでゆく。
しかしるみ子の語りが終わっても、嘉栄はいつまでも美しいままなのだ。

「命がつながり、時がつながる。いや違う。命も時もつながらない。つながるように見えているだけだ」
この物語において、男は影が薄く、あくまで添え物に過ぎない。
三人の女たちを、広大な敷地と嘉栄を隠しておくための蔵のある家が、決して離さない。
人間が存在し始めたときから、いつだって家とは、女のためのものであり、嘉栄とともに生きてくれるのはどんな男でも家族でもなく、ただ、その家だけなのだ。

命も時も、あいまいなものは彼女たちを繋ぎとめることなどできなくて、ゼラニウムの咲き誇る庭が、彼女たちをこの世に結び付けているのである。

★同テーマのお勧め作品
 川上弘美「真鶴」文藝春秋
 桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」東京創元社
 シャーリィ・ジャクスン「ずっとお城で暮らしてる」東京創元社

(井上インストラクター 2012年11月)


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