速読書評『船を編む』
土居インストラクター書評『船を編む』
三浦 しをん (著)
259ページ
玄武書房に勤める馬締光也は営業部では変人として持て余されていたが、新しい辞書『大渡海』編纂メンバーとして辞書編集部に迎えられる。言葉への敬意、不完全な人間たちへの愛おしさを謳いあげる三浦しをんの最新長編小説。
【読書の所要時間】 1回目熟読、2回目熟読 合計:1時間
初めて三浦しをんさんの作品を読んだ。本作は2012年本屋大賞受賞作である。ずっと気になっていた作品だがなぜか手が出ず、今回2013年4月に映画化されると知り改めて興味を持った。読了して感じた事は… 著者の描く絶妙な登場人物の心理描写などが映画ではたしてうまく表現されるのだろうか。個人的には1番気になる所である。本作は玄武書房という出版社で働く馬締さん、西岡さん、岸部さんという3人を順に主人公として辞書「大渡海」を作るまでに13年以上の月日を費やした辞書編集部チームと彼らに関わる人々の物語だ。この作品を読むまでは、新しい辞書を一つ作るのにこんなにも時間がかかり(会社に大人の事情で足をひっぱられた事も一つの要因だろう)こんなにもひとつの事に時間やお金や人生のすべて… 情熱をかける人々がいるということを知らなかった。「辞書を作る」ということは彼らにとって仕事ではない「何か」だった。人生のこんなにも長い期間と費やし完成させたかったものはいったい何だろう? 「大渡海」の出版を目前にしてこの世を去った松本先生の言葉が心に残った。「自分のものになっていない言葉を、正しく解釈できない。辞書づくりに取り組むものにとって大切なのは、実践と思考の飽くなき繰り返しです。」我々は言葉だけなら生まれてから今までたくさん聞いてきたし、使ってもきた。たくさん知っているのだ。母国語でない言語習得にも取り組んでいる。しかし、そのほとんどを本当の意味では理解しておらず、経験もしていないではないだろうか。だから結果としてうまく相手に伝える事ができずとてももどかしく感じることがある。伝わらなくて諦めてしまったり日々の忙しさの中忘れてしまったり… その結末も様々だ。誰もがきっと、それぞれの大切な人に伝えたいことがある。たしかに言葉は時として無力であることは否めない。しかしきっと我々が言葉の本当の意味を理解し、適切な局面で使うことができたなら… きっとその行動は情熱として相手に伝わり、魂がそして生き様が相手の心という大海原に暗闇を照らす光となっていつまでも残るのだろう。そう信じたい。
(土居インストラクター 2013年1月)
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