速読理論 写真記憶方式の限界

写真記憶方式の限界

実験をしてみましょう。
 次のイラストから、千円札、五千円札、一万円札に描かれている正しい肖像画を選んでください。
肖像画一覧
 どうですか? 毎日のように見ているはずのお札でも、正しい肖像画を選ぶのは意外と難しいでしょう。私たちの記憶は、案外いいかげんなのです。
 人間の目は、絵や文字を写すレンズです。しかし、これまでの実験からもわかるように、情報を処理するのは脳です。「不可能図形」の構造の矛盾に気づくのは《目》ではなく、《脳》です。同様に、文字を読むのも《脳》です。
 加えて、人間の脳には、特に注意を向けたものを記憶に残す、という特徴があります。興味のあるものなら強く印象に残りますが、興味のないものは、あまり印象に残りません。人間の記憶は、かなりわがままだと言えます。
 世間には、写真記憶方式による速読術があります。目のレンズでシャッターを切るように、文字を正確に読む、という読みかたです。まるで写真に撮るのと同じ感覚で、文字を読んでいくのです。
 こんな方法が可能でしょうか? 残念ながら、ほとんどの人は、このような方法で文字を読むことはできません。
 これまで説明してきたとおり、私たちは文字を目ではなく脳で読んでいます。目に映るものすべてに、平等に注意を向けているわけでもありません。人間の目は、カメラとは違うのです。
 写真記憶的な見方をする人もいますが、あくまで例外的少数です。たとえば将棋の羽生名人は、例外的な能力がある人と言えるでしょう。
 羽生さんが将棋の局面を何秒で記憶し、どれだけ正確に再現できるかを実験したデータ(日本認知科学会)があります。それによると、羽生さんは約三秒で局面を記憶し、ほほ正確に再現できたそうです。
 こうした能力を持つ人は、ごくわずかです。したがって、ほとんどの人は写真のように文字を読むことは難しい、と心得ておいたほうがよいでしょう。

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