速読書評『Beloved』(英書)

夏目インストラクター書評『Beloved』(英書)

Beloved (Vintage International) (英書)

Toni Morrison (著)
352ページ

南北戦争後のジョージア。折からの奴隷解放の波も、この地にはまだ無縁だった。奴隷制という最も非人間的な制度を背景に、癒すことが不可能な苦悩と抹殺することが不可能な愛を描く著者の代表作。

【読書の所要時間】 1時間30分(精読~熟読で1回)

処女作である『青い眼がほしい』から一貫してモリスンはさまざまな時代におけるアフリカンアメリカンの姿を描いてきた。モリスンの小説において特権的な主題である「愛」で、アフリカンアメリカンの人間性を鮮烈に描き出す。黒人女性作家としての使命感のようなものがモリスンをそのような主題に赴かせるのだろうか。本作では「愛」の深さが悲劇を生む。舞台は19世紀の奴隷制時代。奴隷州であるケンタッキーから自由州であるオハイオに逃亡した奴隷セスは、逃亡中にわずか2歳の我が子の命を奪ってしまう。事件から18年、ビラヴドと名乗る20歳の女性がセスの家(124番地)に現れるところから物語りが始まる。1856年に実際に起きた逃亡奴隷マーガレット・ガーナ―による子殺しに着想している。

 本作でも痛々しいほどに描かれているが、この時代の黒人は自由とは無縁である。奴隷であればなおさら、肉体的、精神的に搾取されアイデンティティも奪われてしまう。さらに本作のセスのように女性であれば性的搾取の対象ともなりえるのだ。
モリスンはセスが逃亡して開拓地に到着するまでの28日間を“unslaved life”(奴隷でない生活 / 人生)と形容している。unslaveという言葉はモリスンの造語である。安易に“free life”などと形容しないのは、セサの思考において“slaveである”ということが基準になっているということ、そしてそれがいかに理不尽であるかを読者に伝えたかったためであろうか。モリスンにそのような意図があったのかは不明だが、彼女の作品が極めてデリケートな問題を扱っているため、読み手はどうしてもそのように深読みしてしまう。モリスンの作品が魅力的なのはそういった言葉選びの巧さにあるように思う。

 ビラヴドの正体については、セスの赤ん坊の生まれ変わりであるとか、黒人の集団的記憶を代弁するものだといった解釈が読者にも受け入れられてきた。ビラヴドがはじめて124番地に現れたとき、セスはまるで破水したかのように体内からとめどなく尿を排出する。ビラヴドの子供じみた要求もセスは盲目的に受け入れてしまうといったようなことは、ビラヴドはセスが殺めた赤ん坊の霊が肉体をもって蘇ったものといえるのかもしれない。またセスの娘デンヴァ―にビラヴドが“Don't tell me what to do. Don't you never never tell me what to do.”などと言う場面は黒人の言葉を代弁しているともいえそうである。

 本作は読んでいて息が詰まりそうになる場面も多くありますが、単純に文学が好きな方や、黒人の問題に関心がある方に読んでいただきたいです。英文もそれほど難しくはないので原書で読まれることをおすすめします。

【これもおすすめ】

  • トニ・モリスン 『青い眼がほしい』(1970)
  • マヤ・アンジェロウ 『歌え、翔べない鳥たちよ』(1969)
  • ゾラ・ニール・ハーストン 『彼らの目は神を見ていた』(1937)
  • リチャード・ライト 『アメリカの息子』(1940)
  • ラングストン・ヒューズ 『ラングストン・ヒューズ詩集』

(夏目インストラクター 2012年5月)


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