速読ブックレビュー・書評

佐野インストラクター書評『騎手の一分 競馬界の真実』

騎手の一分 競馬界の真実(講談社) 騎手の一分 競馬界の真実(講談社現代新書)

藤田 伸二 (著)
176ページ

本当に上手い騎手とは、本当に強い馬とは―
ダービー、宝塚記念、有馬記念など、数々のG1を制してきた著者が、鞭を置く前に伝えておきたいこと。

【読書の所要時間】 20分(精読で1回)

腐った競馬界が目指すべきグランドビジョンとは…?
 速読で以前よりもたくさん本を読めるようになり、好きだった小説や人文系の本だけでなく、未開拓のジャンルにも手を出すようになりました。そうして今回読んだのが新書コーナーでランキング上位にあった、『騎手の一分』です。
 作者の名前を聞いてもピンときませんでしたが、調べてみたらニュースで見たことのある顔、超有名ジョッキーでした。序章では、「1982年には252人いた騎手が、いまや半分近くまで激減している」と競馬界の縮小を嘆いていますが、なぜこうも辞めてしまうのでしょうか。騎手がやめるだけではありません、競馬場の数も減少しています。藤田自身は1991年の初騎乗の年に最多勝利新人騎手に選ばれ、現在もなお現役で活躍していますが、「いつ引退してもいい」とさえ言っています。というのも、JRAの怠慢から起こる問題の数々… その裏事情を具体的に、赤裸々に書いています。具体的なエピソードではジョッキーの名が実名ででてくるのですが、わからなくても、この危機的状況、JRAの怠惰が招いた現在の競馬界の問題は痛切に伝わってきます。

 彼はこの競馬界を「閉鎖された場」だと言います。競馬ファン以外にとって、競馬はギャンブルにすぎないのでしょうか、私にはそうは思えません。サッカーなどでも予想を立てるクジが出ているぐらいですから。彼の言う競馬界への批判は、彼自身のキャリアによって真実性を持ち、単なる批判にとどまらずに競馬界の未来への要望であるとも受け取ることができます。競馬がフェアなスポーツらしさを取り戻すことができることを、本著の出版がその助けとなることを、「閉鎖された競馬界」がより多くの人に開かれることを、願わざるを得ません。

 本のタイトルを見て、『武士の一分』という映画があったなあなんてことを思い出し、作者はヒーロー気取りだなあ… なんて失礼ながらに意地悪な気持ちも持ちつつ読み始めたのですが、内容はかなりマトモで、注釈もしっかりついていたので競馬を知らなくても非常に読みやすかったです。意地悪に読み始めた自分が恥ずかしいです。大変失礼いたしました。むしろ、真摯に競馬に向き合う彼の姿勢に好感を持ちましたし、いかに自分が偏見を持っていたのかを思い知らされました。これは競馬だけの問題ではなく、スポーツに少しでも興味を持てる人であれば共感でき、再考する機会を与えてくれる本だと思います。

(佐野インストラクター 2012年8月)


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