速読ブックレビュー・書評

木村インストラクター書評『桐島、部活やめるってよ』

桐島、部活やめるってよ (集英社) 桐島、部活やめるってよ (集英社)

朝井 リョウ (著)
256ページ

バレー部のキャプテン・桐島の突然の退部が、5人の高校生達に波紋を起こして……。至るところでリンクする、17歳の青春群像小説。
第22回小説すばる新人賞受賞作。

【読書の所要時間】 1~3回目 各50分(精読)、4回目 1時間20分(熟読)

『何者』で直木賞受賞が決定した朝井リョウさんの処女作。映画化されています。つい先日映画を観ていろいろ思うところがあり、今回手に取ってみました。
 まず目に留まったのが、巻末のカバー写真ですね。著者近影というヤツ。大学生の朝井さんがカッコよく収まった写真。ストリートダンスのサークルに所属していただけあって、自由でカジュアルな雰囲気が漂っています。私はそこに驚いたのですよ。直木賞受賞会見での、いかにもマジメそうな黒髪スーツ姿が印象深かったので。社会へ出れば、誰しも大なり小なりピシッとするものですが、それにしてもあまりの変わりように目を奪われました。この人の中で何かが変わったのか。あるいは変わったのは外見だけで、中身は何も変わっていないのか。そのあたりは、これを機会に直木賞受賞作も読んでみないとわかりませんがね。ええ、お恥ずかしい話、『何者』はまだ読んでおりません。反省。
 外見が変わったから中身も変わったかはいざ知らず、高校生活の1コマ1コマをみずみずしく活写する朝井さんの文体は、まさに変幻自在。男子であれ女子であれ、運動部であれ文化部であれ、カッコいい生徒であれダサい生徒であれ、どんな高校生の心の中も見通してしまいます。出口の見えない不幸な状況に立たされたとて、1人1人の心の中には確かな希望の芽が芽吹いているという締めくくり方も、すがすがしくてなかなかよろしい。
 比喩の使い方がとても印象的です。バレーボール部の男子がレシーブでボールを受け止めて返す瞬間の体の感覚。ブラスバンド部の女子が放課後の部活風景を楽器や音符で表現するところ。映画部の男子がカメラを通して観た途端、味気なかったはずの学校生活がみるみる生き生きと鮮やかに映る様子。「世界が色を持つ」だなんて、素敵な表現ですね。今度使わせてもらいますか。
 それにしても、どうしてこの朝井リョウという人には、ありとあらゆる高校生の気持ちが、手に取るようにつかめてしまうのでしょうか。あっちこっちのクラブ活動に出没するわけにもいかんでしょうし、何といっても男が女にはなれませんからね。どう逆立ちしたって無理ですよ。取材や聴き取り調査するにも限界があるでしょう。
 そこで私の推測。この人、恐ろしく共感能力が高いのではないかと。いろんな人の気持ちになりきることが得意な人。そう思うのですよ。なぜそう思うかって? いや、私がそうだからです。年がら年中映画ばっかり観ている映画バカの私の特技。それは、映画の中のどんな登場人物にもなりきれることです。だから、男性の気持ちはもちろん、女性の気持ちもわかります。わかってしまうのです。私が変なのではありません。高名な映画評論家・淀川長治先生もそうおっしゃっていますよ。「私には男の気持ちも女の気持ちもわかる」と。
 朝井さんが映画バカかどうかは知りません。しかしこの人も、どこかでそういう能力を身につけたのだろうと思います。日常生活の中か、はたまた文学や音楽に傾倒するうちそうなったのか。一種の特殊能力ですが、多分間違いないでしょうね。
 インターネットで調べてみたら、「心配性ですぐ腹を下す一面がある」っていうじゃないですか。あー、一緒ですねー。またまたお恥ずかしい話、私もそうでして。どんな人の気持ちもわかってしまう人間が背負った宿命ですな。はい、あきらめて受け入れましょう。不幸の向こう側には希望が待っている。朝井さんがこの本に託したメッセージですから。というわけで私は、早いとこ『何者』を読了することにします。

(木村インストラクター 2013年1月)


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