速読ブックレビュー・書評

寺内インストラクター書評『歌よみに与ふる書』

歌よみに与ふる書 (岩波文庫) 歌よみに与ふる書 (岩波文庫)

正岡 子規 (著)
180ページ

明治時代の俳人・歌人・国語学研究家である正岡子規が、1898(明治31)年から10回にわたって「日本」に発表した歌論。この書の中で万葉集に極めて高い評価を与え、万葉への回帰と写生による短歌を提唱した。

【読書の所要時間】 1回目 1時間30分(精読)、2回目 1時間(精読)

タイトルだけはどなたも聞いた事があるこの本なのですが、実際に読まれた方というのはかなり少数なのではないかと思います。私も長い間「タイトルだけは知ってるけど……」派の一人でした。
 初めて読んだのは、大学の図書館だったと思います。たまたま手にとったこの本が思いのほか面白く、すぐに本屋に行って文庫を買ったのを覚えています。
 御存じの通り、和歌の改革を訴えた本書。かの紀貫之先生を「下手な歌読み」などと評していることは有名だと思います。この本を初めて読んだ私の印象は、「うわぁ、子規、めっちゃ口悪い」でした。すごい毒舌です。ただし読んでいる側が笑わずに居られないユーモアのある毒舌なんですね。私は子規が批難している古今集的な歌が大好きなのですが、それでもついつい吹き出してしまう箇所が随所にありました。
 例えば次のような歌、

  春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やは隠るる

春の夜の闇は、梅の姿を上手く隠しているけど、だけどその香りまでは隠せていないね、という凡河内躬恒の和歌です。綺麗な歌で私はとても好きなのです。
 ところが子規先生はこれを「『梅闇に匂ふ』とこれだけで済む事を三十一文字にひきのばしたる御苦労加減は恐れ入つた者」と評しています。そんな身も蓋もない、と思います。
 そして当時の歌人らに対し、もう梅の香りを歌に詠むのは止めたらどうか、と提案します。もう嫌というほどあるだろう、と。梅の香りは今後「香水香料」に入れる程度にとどめておいて、和歌には入れない方がいいんじゃないかな、と。いっそのこと「鼻づまりの歌人」とまわりに笑われるくらいに遠ざけてみてはどうか、となんともおちょくったような口調です。
 それこそ、「梅の香りはマンネリだからやめたらどうか」とだけで済む事を、こんな皮肉っぽい表現にした子規の苦労こそ「恐れ入つた者」とも思うのですが、しかしなんとも絶妙な文章で、読むたびにクスリと来てしまいます。『歌よみに与ふる書』は全編こんな口調で語られていて、「難しそう」というイメージとは裏腹に、とても面白い本なのです。
 本文は全て文語体で書かれています。少しとっつきにくいのは確かです。ただし今は注釈書も出ているので、文語に馴染みのない方も楽に読むことができます。「読みづらい」というだけで遠ざけてしまうにはもったいない本ですので、機会があれば一人でも多くの方に読んで頂きたいなと思います。

(寺内インストラクター 2013年1月)


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