速読ブックレビュー・書評

寺内インストラクター書評『妖怪談義』

妖怪談義 (講談社学術文庫) 妖怪談義 (講談社学術文庫)

柳田 國男 (著)
226ページ

われわれの畏怖というものの、最も原始的な形はどんなものだったろうか。何がいかなる経路を通って、複雑なる人間の誤りや戯れと結合することになったでしょうか。幸か不幸か隣の大国から、久しきにわたってさまざまの文化を借りておりましたけれども、それだけではまだ日本の天狗や川童、又は幽霊などというものの本質を、解説することはできぬように思います……(自序より)

【読書の所要時間】 1回目 1時間(熟読) 、2回目 40分(精読)、3回目 30分(精読)

カワウソという大変可愛い動物がいます。残念ながら日本固有種のニホンカワウソは絶滅してしまったとのことですが、コツメカワウソやユーラシアカワウソなど外来種のカワウソは今も水族館のアイドルです。このカワウソ、日本では古来より人を化かす妖怪だと考えられていたようです。柳田國男翁は『妖怪談義』の中で、能登半島における川獺の怪異を次のように報告しています。
 能登でも河獺は二十歳前後の娘や、碁盤縞の着物を着た子供に化けて来る。誰だと声をかけて人ならばオラヤと答えるが、アラヤと答えるのは彼奴である。又おまえはどこのもんじゃときくと、どういう意味でかカハイと答えるという。  狐や狸が人に化ける、というのは、現代人にもなじみが深いところですが、カワウソが化けるというのは少し物珍しい感がありますね。しかし、江戸時代の文献を見ると、同様のお話はたくさんあります。有名なところでは、鳥山石燕による『画図百鬼夜行』に、川獺は笠をかぶり擬人化した姿で描かれています。また、京極夏彦さんの「京極堂シリーズ」にしばしば引用される17世紀末の怪異小説集『百物語評判』にも、川獺が若い女性に化ける話があります。日本だけでなく、中国の小説集『太平広記』にも、同様の話があったように思います。「カワウソが妖怪である」というのは広く認識されていたことのようですね。これが中国から伝わってきたものなのか、それとも同時発生的なものなのか、学術的なことは分からないのですが、あんなに可愛いカワウソが日中のいずれでも妖怪扱いされていたというのは面白いなと思います。
 そして『百物語評判』は、このカワウソの妖怪を「河太郎」と読んでいます。河太郎、つまりは河童のことです。『妖怪談義』には、この河童に関する論考も3篇、収められています。この中で柳田翁は各地に残された河童伝承を収集されていますが、中でも私が一番好きな河童の習性は「河童は人間の子供に化けて相撲を取りにやってくる」というやつです。この正体がカワウソだとしたら、こんなに可愛い妖怪はいないと思うのですがどうでしょう。ニホンカワウソが普通に近所の河川にいた時代、妖怪はもっと身近な存在だったのでしょうね。
 この『妖怪談義』は、妖怪がまだ身近な存在だった時代の最後の切れはしを沢山集めてくれています。書物には残っていない伝承を掘り起こし、私達に想像の糧を沢山与えてくれる。そんな書物です。疲れた時に読むと、なんとなくリラックスできます。「相撲とろうぜ」と話しかけてくるカワウソの姿を思い浮かべると、『日本昔ばなし』の世界に飛び込んだような気持ちがします。とても好きな一冊です。

(寺内インストラクター 2012年12月)


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